分子配向エレクトロニクス研究フォーラムご紹介

(株)日立製作所 基礎研究所
吉本 尚起


 日本液晶学会の6番目のフォーラムとして「分子配向エレクトロニクス研究フォーラム」が設立された。 本フォーラムの最初の講演会も100名を越える参加を得て、無事終了した。

 本フォーラムは有機半導体に関わる諸物性を分子配向という着眼点で追求する目的で設立された。 有機半導体は電荷輸送特性の指標である移動度がすでにアモルファスシリコン並みの数値に達してきて おり、デバイス応用の研究もここ数年でかなり加速している。これまでの「移動度が小さすぎるから デバイスには使えない」という常識が覆されたのは、分子配向と半導体特性をもう一度見直す仕事が 粛々と進められたためである。分子配向と言っても、その範囲は広い。大きな結晶を得ることは、 長距離にわたって分子配向が規則正しい配列を維持しなければならない。また、SAM膜をはじめとした 自己組織化薄膜も分子配向、凝集状態が如実に反映される。液晶は分子配向を代表するものであり、 液晶性有機半導体は大きな移動度とソフトマターとしての性質を併せ持った材料として注目されている。
 本フォーラムの目指すところは、これら分子配向に関わる基礎物性、デバイス作製、アプリケーションを 包括的に網羅し、これまで境界領域として別々の立場で行われてきた研究の橋渡し的な役割を果たす ところにある。分子エレクトロニクスはこれまで、材料・物性・デバイスがいわば縦割り的な分業で 研究されてきた。それぞれの得意を軸にして、分子配向というキーワードでつなぎ合わせることにどれだけの 意味を持たせるかが、われわれ運営委員のミッションだと感じている。その軸となる得意分野を知って いただくため、第1回講演会では運営委員のショート講演を行い、本フォーラムの概要を明確にした。 今後、この方針に基づいて講演会、ディスカッションなどを行っていく予定である。
 本フォーラムの第1回講演会では、協賛学会(応物、高分子、日化、電子情報通信)から多くの 参加していただいた。これは他学会のバックグラウンドでも、液晶をはじめとする分子配向を軸とした 考え方に関心があることを示していると考えている。液晶という得意分野を生かして、本フォーラムが 分子エレクトロニクス全体の新たな潮流の契機になれば幸いである。
 最後に、本フォーラムに液晶学会会員各位が多数ご参加いただき、ともに分子配向を軸とした エレクトロニクス材料を開拓していけることを期待しております。皆さまのご理解、ご協力を よろしくお願いします。