2003 年液晶学会サマースクール報告
関隆広
名古屋大学大学院工学研究科物質化学専攻
2003 年液晶学会サマースクールが7 月10 日(木)から12日(土)まで,海水浴場が眼下に広がる,まさに夏の学校と呼ぶにふさわしい場所,熱海市大月ホテルにて行われた.新幹線の熱海駅下車という交通の便利さも手伝って,多くの若手研究者と学生の方々に参加いただき,運営委員,現地実行委員,学生アルバイトで総勢90 人を超える盛り上がりでスクールを開催することができた.
今回は11 名の運営委員〔委員長:関隆広(名古屋大) ,栗原清二(熊本大) ,菊地裕嗣(九州大) ,木村宗弘(長岡技科大) ,川月喜弘(姫路工大) ,長谷川雅樹(日本IBM) ,折原宏(名古屋大) ,氏家誠司(島根大) ,鳥海弥和(東京大) ,古川猛夫(東京理科大) ,中村尚武(立命館大) ,敬称略〕によって企画立案され4 名の現地実行委員〔中野健(横浜国大) ,舟橋正浩(東工大像情報) ,宍戸厚(東工大資源研) ,永野修作(名古屋大) ,敬称略〕が世話役となり実行された.
今回は,サマースクールのあり方について,運営委員がほぽ半年かけて議論と見直しを行ってきた.菊地先生にはマスタープランとシラパスづくりの中心となり作業していただいた.また,折原先生には,液晶学会となってからの過去サマースクールすべてのパックナンバーのテキストを収集・整理していただき,それらをシラパス上に分類をしていただいた.講師の先生方にはこれらのバックナンバーを送付し,今回のテキストを作成と講義の準備の参考としていただいた.
マスタープランにおいて,講義内容を化学,物理,ディスプレイの3 分野について初級,中級の明確なシラパスが作成され,さらに横断的なものや先進的なものを上級(トピックス)と位置づけた.初級では,液品を扱ううえで必要不可欠な基礎として毎回ほぽ同様な内容の講義がなされる.中級は一般的であるがより高度な内容を扱う.中級では,シラパスの内容を一回のスクールで、はカバーで、きないため,数回のスクールで内容を変えながらの講義が行われる方針をとる.上級は,横断的ないしは掘り下げた内容を扱い,毎年特定テーマに焦点をあてることとした.今回は「液晶と光」を取り上げた.マスタープランの作成は,骨組みをしっかり作成することによって,討論会・講演会・シンポジウムなどとは趣旨が全く異なるスクールの特徴と位置づけを明確にし,さらにサマースクールの開催企画にあたっての毎回重複して繰り返されるであろう多くの手聞を今後省くことも意図している.
初日の午後からスクールは始まった.関が開校の挨拶をさせてもらった後,青木良夫先生(埼玉大)の初級化学の講義と木村康之先生(東京大)の初級物理の講義が行われた.お二人の先生に, きれいな図を用いてゆったりと丁寧な講義していただ、いた.このお二人のFriendly な講義で参加者の方々の緊張感がかなり解けたのではないかと思う.夜は早速記念撮影と懇親会にて和やかで、楽しい雰囲気を満喫した.
2日目の午前は、山口留美子先生(秋田大)の初級ディスプレイの講義で始まった.パソコンによる演習を踏まえて,光学の基礎について手元のパソコン操作で計算式の意味を実感してもらうという印象深いものであった.西山伊佐先生(横山プロジェクト)の中級化学にて,テクスチャー観測の説明やキラリティーを持つ液晶分子に関してビジュアルな図を用いて明快な講義をいただいた.午後は昼食後の自由時間ののち,香田智則先生(山形大)から中級物理として液晶の分子論の取扱いについてご講義いただいた.さらに高橋泰樹先生(工学院大)からは中級ディスプレイとしてLCD の駆動方式の基本について広範なレビューをいたこの日は夕食の後,若い学生さんを中心としたボスタ一発表がなされたが,どのポスターも時間を超過して熱心な議論が続いた.
3 日目は, r液晶と光」に焦点を絞った上級(トピックス)の講義を行った.まず,鳥海弥和先生(東京大)から「液晶のSpectroscopy とOpticsJ と題し,これらを学習するにあたってのポイントと筋道を明快に熱弁された.田所利康先生(オプトクエスト)には, 「トピックス一一液晶界面配向を“光”でみる」と題して,偏光解析と近接場光学プローブ顕微鏡を用いた微小領域の配向評価に関する最新成果のお話をいただいた.最後は,長谷川雅樹先生(日本IBM) に「光配向法によるLCD と新規デバイスの可能性」の講義をいただき,活発な質疑がなされた.
参加者の皆さんのアンケート結果,メール,口頭にて多くのよい評判をいただいており,多くの方々に満足していただけたものと胸をなでおろしている.企業研究者の方々から, r大学を出てしまうと決して受けることのできない講義を受けることができ,大変有意義で、あった」との声をいただいた.これこそスクールが意図するものであり,シラパスづくりなどの”水面下”での努力は確実に報われたものと信じている. もちろん,アンケートには改善・考慮すべき点に関する貴重なご意見も多く寄せられており,今後のスクールに反映できればと考えている.
今年の夏の前半は例年にない冷夏であった. 7 月上旬はまだ梅雨は明けておらず,ほとんど曇りか雨のあいにくの空模様であった. しかし,天候の神様は私たちのためにプレゼントを下さった. 2 日目の昼下がりの自由時間だけ,ちょうどよいタイミングで青空に恵まれた. 明るい砂浜を散策することができ,海で、泳ぐ閲達な方々もいた.私にはこのときのまぶしい青空と青い海が,今回のサマースクール全体のイメージを象徴しているように思える.よい思い出ができた.
2 泊3 日のスクールでは,講義・勉強にも増して人との出会いや交流の持つ意義が極めて大きい.研究は人との交流なしには進めることができない.スクールを機会に出会った方々が末永くそれぞれの交流を続けていただけることを願っている.
講師の先生方には,期待以上の周到な準備と熱のこもったテキスト作成と講義をしていただき,参加者との積極的な対応を図っていただいた.また,参加者の方々には,いろいろな面でスクールに協力し,大いに盛り上げていただいた.不慣れで不手際も多かったと思うが,皆様のご協力で3 日間の行事を無事終えることができた.講師の先生方,参加者の皆様,運営委員,現地実行委員,フットワークよく動いてくれた学生諸氏の方々にこの場を借りて厚くお礼を申し上げたい.特に,名古屋大助子の永野氏には実行上のキーパーソンとして,多くの煩雑な作業を適切にテキパキと進めてくれた.彼の力なしには今回のスクールの円滑な運営はできなかったであろう.