液晶サマースクール08開催報告

平野幸夫
2008年7月17日から19日まで昨年とほぼ同じ日程で同じ場所の熱海市の大月ホテル和風館で行われ、参加人数は講師と実行委員を含め73名であった。私自身サマースクールへの参加は初めての経験ながら校長&講師として参加することとなった。
例年は”校長”=”実行委員長”ということで講義内容の選定と金銭的実務の両方が責務であったが、今年は分担し講義内容の選定は校長が、金銭的実務は実行委員長が行うこととなった。実行委員長は行事担当理事の大阪工業大学の宇戸先生が務めた。
例年のサマースクールではシラバスに従い講義内容を組み立てていると聞いていたが、それでは校長を引き受けた立場からするとあまり面白くなかったので、そのシラバスを横目に見つつも材料開発やディスプレイ開発のキーになるテーマにフォーカスし講義を構成することにした。それが液晶と配向膜の”界面”領域である。
液晶ディスプレイの開発現場で直面している様々な表示不良の多くはこの界面領域にその原因があると考えられ、材料メーカーにとってもパネルメーカーにとっても界面領域は開発の最前線と言える。今回の様な界面領域にフォーカスし表示不良までを議論する機会は液晶学会でも珍しい試みだったと考えている。
講義内容を選定する際、サマースクールは入社1,2年の若手の参加者が多いことから、いきなり界面領域の講義をするわけにもいかず、例年に従い初級編として物理、化学、ディスプレイと構成し、講師の方々には界面領域を意識した講義にして頂くようお願いした。中級からトピックスにかけては、様々な配向現象を紹介しつつ(山梨大学/廣嶋先生)、ディスプレイメーカー(日立製作所/岩壁靖氏)の立場から界面領域について講義していただき、続いて私が界面領域の分子配向と表示不良の関わりについて講義を行った。その後、界面領域をいかにサイエンスとして議論したらよいかを名古屋大学名誉教授である木村初男先生と山形大香田智則先生に講義していただき、最後に産総研米谷慎氏よりシミュレーションの立場で界面近傍での液晶分子の振る舞いについて計算事例をふまえ紹介して頂いた。
物理:「液晶のABC」  石川 謙(東工大)
ネマティック液晶の対称性やオーダーパラメーターの導出を数式に不慣れな人たち向けにシンプルかつ明解に説明された。
化学:「液晶の構造と諸特性」  中島 紳二(メルク(株))
液晶化合物の分子構造と液晶組成物の物性との関係について、過去から最近にわたり説明された。
ディスプレイ:「液晶素子による偏光制御と光シャッター機能」  山口 留美子(秋田大)
エクセルを駆使した光学シミュレーションを実演しながら複屈折の仕組みを説明された。
「配向制御」  廣嶋 綱紀(山梨大)
様々な配向方法や配向制御方について説明がされた。
「液晶の配向」  岩壁 靖((株)日立ディスプレイズ)
液晶ディスプレイの製造工程の話から過去の事例として配向処理の失敗例など説明された。
「配向膜の界面現象」  平野 幸夫(チッソ石油化学(株))
液晶と配向膜の界面と表示不良の結びつきについて説明を行った。
「物理的に眺めた界面現象」  木村 初男(名大名誉教授)
歴史を追って液晶の物理について力学の式を用いて説明していただいた。
「界面の統計物理」  香田 智則(山形大学)
界面の熱力学的なエネルギーについて説明された。
「界面の分子シミュレーション」  米谷 慎(産総研)
界面の液晶分子のダイナミクスについてのシミュレーションと最近のシミュレーションソフトのトレンドについて説明された。
今年は入社1~2年の若手からディスプレイメーカーの中堅以上までと幅広く参加があり、界面領域をテーマとした事が幅広い層の人たちの目をこのサマースクールに向けさせた結果となった。
懇親会は連日深夜まで続き、参加者は普段疑問に思っていることを語り合い懇親を深める事ができたと考えている。
本スクールを企画した実行委員会(以下敬称略)は校長平野幸夫(チッソ石油化学)、実行委員長宇戸禎仁(大阪工大)、石川謙(東京工大、講師兼任)、近藤克己(日立製作所)、山口留美子(秋田大、講師兼任)、高西陽一(京都大)、西山伊佐(DIC)、青木良夫(DIC)、鈴木成嘉(メルク) 、能勢敏明(秋田県立大) 、舟橋正浩(東京大) であった。特に宇戸先生(大阪工大)には実務、石川先生(東京工大)講義内容の決定、近藤氏(日立製作所)には講師の選出に御尽力いただき非常にお世話になりました。快く講師を引き受けていただいた先生方にもこの場をかりて感謝します。ありがとうございました。