SS05開催報告 (学会誌に掲載)


 毎年恒例の,液晶学会の大きなイベントの1つであるサマースクールが7月14日(木)から16日(土)まで2泊3日で熱海の大月ホテルで開催された.熱海の同ホテルでは一昨年も開催されているが,場所的にも良いことから本年も熱海での開催となった.今年度は募集人数100名に対し99名の方々が受講生として参加し,さらに講師スタッフを含め,のべ115名で盛大に開催することができた.また,今回の開催日程はちょうど熱海の祭りと重なり,ホテル前の通りがほぼメインの会場となっていたため,夕食後見物に出歩いた方もいた.サマースクールは液晶技術の初心者の方が多く集まり一緒に寝泊まりするという通常の学会や講習会には無い部分があり,技術的な知識の取得だけでなく受講者同士あるいは受講者と講師との人と人との繋がりが親密になる.これも液晶学会サマースクールの特徴である.以下,スケジュールに沿って講義内容を簡単に紹介する.
1日目は一般講義の前に「総括」ということで,東京大学の鳥海弥和先生がご講演された.サマースクールを受講するにあたり,どのように自分の仕事・研究に取り込んだり活かしたりして行くかということをお話しいただいた.次に「物理1:液晶の諸物性定数とその測定法」という題目で防衛大学校の森武洋先生にお話しいただいた.誘電率,屈折率の話を中心に誘電率の周波数依存性の話や,測定の方法などの話があった.その後,秋田大学の山口留美子先生が「ディスプレイ1(初級):異方性媒質における光学の基礎と液晶セル中の光伝搬」という題で液晶セルにおける光学の基礎についてのご講義をされた.なぜ液晶分子の方向が変わると光学変化が得られるのか(表示ができるのか)と言うことを中心に,ご自分で作られたジョーンズマトリクスによる光学計算プログラム(エクセル)を受講生に配り,受講生も持参のパソコンで動作させながら講義を聴いた.受講生は自宅,学校あるいは職場に戻ってからもソフトを使って復習することができる. 1日目の講義は以上でその後,夕食,自由時間となった.
2日目の午前中は,まず「物理2:画質評価と視覚特性」という題目で東京工芸大の田村徹先生にご講義いただいた.液晶ディスプレイの場合「しかく特性」というと「視角特性」を思い浮かべてしまうのだが,そうではなく人間の目の「視覚」に絡んだ話でありディスプレイ一般の評価についてのご講義である.我々は良い液晶ディスプレイ,見易い液晶ディスプレイを目指して研究開発をしているが,特に液晶ディスプレイは他の方式のディスプレイに比べ様々なタイプが普及しており,また多種多様な照明環境下で使用されることも多い.そのような環境下でディスプレイを見たとき,何を基準に「見易い」と判断するのか,ディスプレイの評価や開発目標を定めたりするのに重要と思われる話であった.次にメルク(株)の田中征臣先生により「化学1:液晶の構造と諸特性」という題目でご講義があった.典型的な液晶分子の構造式や,構造式と誘電率異方性の相関等の話,さらには,構造式から理論的に推定される屈折率,粘性,弾性等の諸物性特性の値と実際の測定値の話など,開発の歴史的な動向も含んだ内容で材料メーカーならではの話であった.ここで昼食となり,長めの昼休みが取られた.幸い天候も良く熱海の街や海辺を散策するのには好都合であった.午後最初のご講義は日産化学工業(株)の澤畑清先生の話で,題名は「化学2:配向膜の基礎」であった.液晶の配向に関してどのような力や効果が考えられるか,配向膜に適した材料や特性などに関しての話であった.この講義も材料メーカーならではの内容であった.次に,(株)日立製作所の小村真一先生のご講義で,「ディスプレイ2(中級):種々の液晶表示モード・液晶ディスプレイの駆動方式」の話があった. 液晶の光学についての話(ディスプレイ1)に続く内容である.ディスプレイに応用するとき,具体的にどのような表示方式があり,それぞれの特徴はどのようなものかを紹介する内容であった.また駆動方式についても,パッシブ駆動・アクティブ駆動の話があり,なぜTFTを使った駆動が必要なのか等の話もあった.その後,懇親会を兼ねた夕食の後にポスターセッションがあった.ポスターセッションは毎年,受講生が中心となり「液晶に関わることならなんでもOK」というスタンスで行われている.アルコールが多少(?)入り,和やかな雰囲気になったところでセッションが始まった.今年は10件の発表があった.受講生の方の何人かではあるが,受講生の皆さんが講師になる番である.昨年度まで特に予稿はなかったのだが,本年度は予稿を提出してもらい,サマースクールテキストの一部として綴じ込んである.ポスターセッションのさらなる活性化と,発表の事実や内容を予稿として残しておきたいということから試行的に行った.発表で目を引いたのは偏光フィルム作製の実演であった.文献などでは偏光板の作製法を見ることはできるが,実際に目の前でフィルムを延伸させ,ヨウ素液に浸すと偏光フィルムとして機能する様子には誰もが見入った.
3日目はトピックスと言うことで毎年テーマを設定している.本年度は「液晶ディスプレイの周辺技術」というテーマであった.「車載用情報表示技術」としてオプトレックス(株)の大河原雅夫先生にご講義をしていただいた.車載用というのは使用環境がかなり厳しい.温度変化が激しいため材料の劣化等による表示ムラが問題となってくる.具体的な表示不良の例(写真)やその評価法の話があった.言葉では表示ムラとか表示不良等と聞いていても,なかなか実際の状態を見たことが無いという人(特に入門者では)も多かったのでは無いかと思う.具体的な表示不良の話やその評価法の話はためになったのではないか.また,車載用ということでデザインも重要である.しかし価格は抑えなくてはならず,なかなかご苦労されているようである.その次は,「LCD用光学補償フィルム」という題で富士写真フィルム(株)の森裕行先生にご講義していただいた.製品になっている多くのLCDが光学補償のフィルムを用い,視角補償やコントラストの改善を行っている.今や光学補償フィルムはLCDには必需品となっている.光学補償の原理から,補償フィルムの特性,材料の話なども聞くことができた.最後は,「液晶リアプロジェクションTVの特徴と将来性について」という題でセイコーエプソン(株)の古畑睦弥先生のご講義であった.近年,「リアプロ」と呼ばれ特に海外で需要が延びているタイプである.プロジェクション方式の原理をはじめ,他のディスプレイとの比較や,表示技術の異なるプロジェクション方式との比較等の話があった.また,プロジェクター方式の技術課題やプロジェクター用の光源の種類や特徴等の話も聞くことができた.
以上3日間を通し,見たこと聞いたことのわずかでも,各自の知識の一部にでもなり,またこれらが各自の技術向上や知識向上のきっかけになって欲しい.またサマースクールを通して知り合った人との繋がりはサマースクール中だけではなく,学会等でも気軽に声を掛け合い,今後も仕事や相談などにも活用できると良い.気軽にお互いを刺激できるようになり,さらなる液晶業界の発展につなげて欲しい.
講師の諸先生方,お手伝いくださった実行委員や学生の方々,会場関係で大変お世話になった大月ホテルの山崎様にこの場を借りて御礼申しあげます.