液晶サマースクール07 開催報告

日程 :2007年7月19日(木)~21日(土)
開催地:熱海大月ホテル 和風館

舟橋正浩
東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻

液晶サマースクールは,新たに液晶研究を始めた研究者・技術者を対象とする講習会で,本学会の主要行事の一つである.液晶研究に新規参入した方であれば,学生・社会人といった身分は問わない.年齢制限も一切ない.ただ,ここ数年の傾向としては,企業入社1 年目2 年目あたりの若手社会人の参加者が多い.液晶科学の学際性に鑑み,その内容は化学,物理の基礎的なものから,電子工学,光学,デバイスなどの応用的な分野までをカバーしている.取り上げる内容はサマースクールシラパスに整理されており,そのシラパスに従って講演内容が決定される.1 回のスクールではそのシラパスの全項目をカバーすることはできないので,数年かけて全項目がカバーされるよう,実行委員会で講演内容を審議することになっている(ゆえに,サマースクールに複数回参加するリピーターというのも原理的にありうるし,意味があるのである).

本年のサマースクールはここ数年どおり,熱海市の大月ホテル和風館において7 月19~21 日に開催された.本年1 月に実行委員会を編成し,何度か委員会という名の飲み会を開催し,準備を進めてきた.本年は私の異動のため,対応が全般的に遅れ気味であったが4 月の半ばに講師決定5 月連休の後,学会HP に開催告知を掲載することができた.例年通り,初級コース(化学1 ,物理1 ,ディスプレイ1 ),中級コース(化学2 ,物理2 ,ディスプレイ2) ,上級コース(トピックス1, 2 , 3) の計9 講演とポスターセッションを企画した.今回は,初級,中級コースは物理,化学,光学,電子工学に基礎を置いた学術的なものとし,サマースクールシラパスを基にしてテーマを設定した.上級コースにおいては,企業における技術開発の動向を苦労話,裏話も合めて講演願うことにした.講演内容はいずれも本格的なもので,他の行事では聞けないものばかりであった.

物理1 松山明彦先生(九州工業大学)
「液晶を物理的に扱うために」

ソフトマターにおけるエントロビーを動きやすさとして捉ふ液晶相・液晶物質の熱力学的な考え方を明快に解説された.

化学1 高西陽一先生(京都大学)
「液晶相の見分け方ー相構造と構造解析」

偏光顕微鏡観察による相構造の推定と構造欠陥の解析,X 線回折による構造同定に関して,バナナ相などの最先端の話題を交えながら解説された.

ディスプレイ1 山口留美子先生(秋田大学)
「液品中の光伝播-TN セルを徹底解析ー」

山口先生自らが作製されたエクセルフ。ログラムを駆使して,異方性媒質中での光の伝播の取扱いをわかりやすく解説された.

物理2 多辺由佳先生(早稲田大学)
「液品の静的・動的構造と現象:小さな入力で大きな出力を得る」

液晶の弾性体理論について,基礎から最先端の二次元液晶の話題まで明快に解説された.参加者の理解度を確認するために,同室の参加者や一部委員と討論されたらしい.

化学2 加藤隆史先生(東京大学)
「分子集合体としての液品の設計と機能化」

液晶相で、の水素結合などの弱い相互作用を利用したナノ構造の形成について,ディスプレイ用液晶の枠を超えた分子集合体としての液晶の概念を鮮やかに解説された.

ディスプレイ2 高橋泰樹先生(工学院大学)
液晶ディスプレイのしくみから駆動方法までを詳細に解説された.液品ディスプレイを理解するのに必要な概念がほぼ網羅されつくしていた.

トピックス1 山田祐一郎先生(シャープ(株) )
シャープにおける液晶ディスプレイ開発の最近の動向を解説された.シャープという世界トップの企業における正攻法としての研究開発の話題であり,参加者に強い印象を与えた.

トピックス2 望月昭宏(ナノロア(株) )
ナノロアにおける液晶新技術開発の取組みについて解説された.こちらは,ベンチャ一系企業での機動作戦としての技術開発であり,参加者に強いインパクトを与えた.

卜ピックス3 河田憲先生(富士フィルム)
富士フィルムにおけるディスコチック液晶を用いた位相差フィルムの開発について,裏話を交えて,臨場感あふれる講演をなされた.

最終的に,一般会員4 人,賛助会員28 人,一般非会員25 人,学生会員5 人,学生非会員7 人,総計69 人の参加者があった(直前キャンセル数名あり).人数的には盛況,会計上は黒字であった.ポスターセッションも学生会員を中心に十数件の発表があり,非常に盛り上がった.人と人のつながりをつくるのも本スクールの重大な使命の一つであるが,教頭閣下の「液晶万歳! 」 の音頭に始まった懇親会,夜の飲み会も盛況で少々肝臓が疲労した方も多かったであろうと,衷心よりお慶び申し上げたい.本スクールを企画した実行委員会(以下敬称略)は,校長(委員長)舟橋正浩(東大) ,教頭(副委員長)西山伊佐(大日本インキ) ,実行委員清水洋(産総研) ,松山明彦(九工大,講師兼任) ,山本貴広(産総研)であった.また,理事会から能勢敏明(秋田県大) ,青木良夫(埼玉大) ,石川謙(東工大)の三方に参加いただいた.特に,西山教頭には講演内容の決定,企業関係者との連絡などで非常にお世話になりました.また,能勢委員には,理事会との連絡などでお世話になりました.脳みそが機能停止状態にあった校長の不手際のため,委員の皆様にはいろいろとご迷惑をおかけしました.心よりお詫び、申し上げます.

サマースクールの内容に関していつも議論になるのは,基礎かトピックスか,あるいは,初心者重視か本格派かである.今回は基礎-トピックスの軸に関しては比較的うまく分散できたと思うが,初心者一本格派の軸においては,明らかに本格派に偏っていたことは否めない.その代わり,いずれもがヴイルヘルム・フルトヴェングラーのベートーヴェンの演奏を思わせる白熱の講義で、あり(ちょうど9 講演あったし) ,受講者に強烈なインパクトを与えたものと確信する.

最後に,十数年前,私が液晶研究を始めたときにある偉大な液品研究者からいただいた言葉を記す.ある意味で,この言葉は液晶研究の難しさと楽しさ,そして,本サマースクールの意義をすべて集約していると思われるからである.

「私の専門は有機合成で,液晶の研究に必要な光学や物理の素養がありません.そんな状態でこの業界で、やっていけるでしょうか」
「日本,いや,世界の液晶研究者の中で初めから液晶の研究をしていた人がどれだけいるでしょうか.みんな他の分野から参入してきたんです.私だってそうですよ. 」