「新規U字型化合物の合成と電気光学特性」

弘前大学理工学部物質理工学科 吉澤 篤


ディスプレイ用液晶材料開発においてしきい電圧(Vth)の低下は重要な課題である.Vthは誘電異方性(Δε)の平方根に反比例することから,Δεを大きくすればVthが低くなる. 一方,TFT駆動のためには高い電圧保持率(VHR)が要求されるが,シアノ基のような極性基の導入はVHRの低下をもたらす.そこでVthを低くするためにフッ素をコア,側鎖及び結合基に導入した化合物が設計・合成されている.私達は予め組織化した分子(supermolecule)を設計し,それが形成する液晶相の秩序を調べている.1) 図1にその例を示す.カテコールを連結部とし,2つのフェニルピリミジン基を結んだU型化合物(BOPPHB)はネマチック相において層間隔に対応するピークが観測され,N相に新たな秩序を誘起したものと考えている.2) このU型分子に軸不斉を導入したビナフチル誘導体ではスメクチックA相の高温側に比較的広い温度範囲でブルーフェーズが発現した.3)さらに,液晶形成基を3つ持つλ型分子では,不整合SmA相が観測された.4) 本研究ではU型分子の長軸方向にフッ素を導入したsupermoleculeを合成し,それがネマチック相における電気光学特性に及ぼす影響を調べた.5)
新たに合成した含フッ素U型化合物及び対応する単量体の分子構造と相転移温度を図2に示す.単量体では液晶相を発現しなかったが,U型にした化合物1ではネマチック相を示した.また,加熱・冷却で相転移にヒステリシスが見られた.次に,化合物1をホスト液晶に10wt%添加し,光透過率の電圧依存性を調べた(図3).ホスト液晶のVthが4.0Vに対して,化合物1を添加した系では1.9Vと顕著な低下が見られた.また,比較化合物である化合物2及び3をホスト液晶に各々10wt%添加した際のVthはそれぞれ3.0V及び3.4Vであった.組織化されたU型構造がVthの低下をもたらしたと考えられる。Vth低下の要因を検討するために,各化合物をホスト液晶に10wt%添加し,そのΔεを測定した.ホスト液晶のΔεが1.07であったのに対し,化合物1,2および3の添加系ではそれぞれ1.74,1.43および1.33であった.U型にすることによって,対応する単量体から推定されるより大きなΔεを誘起し,その結果,Vthを顕著に低下させたと考えられる.
ここで示した分子設計がネマチック液晶組成物のΔεを制御する上での新しい指針になることを期待している.


参考文献

1) 吉澤 篤,西山伊佐:機能材料,24,49 (2004)
2) A. Yoshizawa and A. Yamaguchi, Chem. Commun., 2060 (2002)
3) J. Rokunohe and A. Yoshizawa: J. Mater. Chem., 2004, DOI:10.1039/<B410931G)
4) A. Yamaguchi, I. Nishiyama, J. Yamamoto, H. Yokoyama and A. Yoshizawa: J. Mater. Chem., 2004, DOI:10.1039/<B406716A>
5). A. Yoshizawa, F. Ogasawara, K. Manabe, S. Segawa and T. Narumi: Jpn. J. Appl. Phys., in press.